デジタル手抜き(2007-05-10)

デジタル化

IT活用の神髄は、コストダウンである。大幅なランニングコストの削減。他にはほとんど無い。

異論はあるまい。

担当している実技講習会で、ポラロイド写真を撮影するステップを、今年からデジカメに置き換えた。

デジタル一眼レフにマクロレンズを装着し、接写台に固定してある。

  1. 試料を撮影台に置いて、ファインダーをのぞき込みフレームを決める。
  2. マニュアルフォーカスでピントを合わせて、ブラケット撮影で三コマほど連写する。
  3. USBケーブルをマックに繋いで、iPhotoで取り込む。
  4. 丁度良い露出のものを選んで、インクジェットプリンタで印刷して渡す。
  5. 次の撮影のため、デジタルカメラとマックの接続を解除する

撮影から画像が手に入るまで数分を要する。私がオペレーターで、付きっきりになる。

講習参加者は、豪勢なデジタル一眼レフに感嘆の声を上げる。

「すごいですね!」

「まぁね。去年まではポラロイド写真だったんだよ。」

ポラロイドカメラは単能の機械なので、ピント合わせさえ必要ない。撮影してフィルムを引き抜き、30秒後に裏紙を剥がすように云って受講者に渡す。ただそれだけ。

ポラロイド写真の方が遥かに簡単で、手間がなかった。実技講習会で写真撮影をデジタル化したメリットは何か。

ほとんど無い。大幅なランニングコストの削減。他には無い。

情報工学は子どもたちの安全を確保できるか

今や、小学生たちの登下校の監視もデジタル化されている。

文部科学省が、登下校時の安全確保に関する取組事例集を公表しており、報告されている32の事例のうち7件が所謂IT技術を用いたものである。

近隣セキュリティシステム(まもるっち)というものがあるそうだ。事例番号29。東京都品川区の取り組みである。防犯ブザー兼用のPHS対応専用端末機で、ピンを引くと非常音が鳴り品川区センターシステムに自動送信され、発信元付近の登録者や児童の保護者に連絡が入る仕組みである。発信場所近辺大人が駆けつけて子どもの危険を未然に防止すると主張しているが、これでは未然にとは言えないなぁ。センターシステムに自動送信の先も自動なのか、それともオペレーターのような誰かの判断が介在するのか。

うちの子どもたちも防犯ブザーを持っている。鞄にぶら下げて登校している。品川区ではPHS発信機能付き防犯ブザーを首にぶら下げさして居るようだ。防犯ブザーの効果ははっきりしている。何かが起きて子どもが助けを呼びたいときに鳴らせば、耳にした誰かが状況を判断し行動する。ある人は驚いて逃げ出し、また、別の誰かは助けに来るだろう。防犯ブザーの効果はブザーの周辺、音が届く範囲である。

一方、それにPHS発信が加わるとどうなるか。情報はデジタル化され、電波に乗ってアンテナに届く。そして区のセンターシステムに発信があったことと、その発信がどのアンテナを経由して伝わったかを伝える。そこからオペレーターの判断が加味されるのか、あるいはソフトウエアが一律に情報を処理するのか分からないが、情報は増幅され、(あるいは拡散されて)伝えられる。情報を受け取った登録者は次の行動に移る。おそらく、発信元のブザーを探す作業である。子どもたちが「ためらわず引く」ことと「誤報」の板挟みになることは想像に難くない。

現実に、非常ベルのピンを引くような状況では、その場で直ちに誰かが助けてくれることが重要である。引きずられて、押し込められたら手遅れだ。数分の遅れが、危機管理に決定的な影響を与えうる。まもるっちの情報は遠回りする。子どもたちが適切な判断が出来て、緊急時にピンを引いたとしても、大きな音が鳴って不審者にそれを所持していることがばれる仕組みだ。また、発報した場所が、直ちに駆けつけられる精度で確定できるのだろうか。路地を探して右往左往しているあいだに、車に乗せられてしまえば状況は厳しくなる。

このようなシステムでは、流される情報の質が問われ、まもるっちの最大の問題点は、おそらく情報の発信者が子どもであることなのだ。目の前の人が「不審」かどうか、判断することが必要で、それが事件を未然に防ぐために必要なのだが、子どもたちが自分の置かれている状況を客観的かつ的確に判断し、タイミング良くまもるっちを作動させられるかどうか。その最重要な点を子どもたちに任せてしまうのは明白な手抜きで、99の不確かで未熟な情報に振り回された大人たちが、100報目の重大事件に対応できるかどうか、はなはだ疑問をもつ。

結局、大人が巡視するしかないだろう。まもるっちのような(ことが起きてから通報する)道具では最悪の事態に対処できない。こういったものはシステムの導入やメンテナンスには相当な経費がかかるだろうが、一旦システムが稼働し始めると、手間が省けることで人件費を削減できる。つまり、手抜きの道具である。それを無理矢理もたされるとなると、親の立場ではかなりやるせないものがあるだろうと、想像する。

あんまりネガティブに言っても仕方がない。要するに、ちょっと大げさな防犯ブザーと思えばよいのだろう。主催者が意図したように完全に働いたとしても、子ども、オペレーター。そして駆けつける人が適切に判断する必要がある。

静岡県島田市の位置情報携帯端末機器(GPS)の導入で子どもの安全を守るグローバル・ポジショニング・システム(事例30番)のレポートに比べて、品川区の事例はネガティブな意見がほとんど採り上げられていない。システムそのもののバグもあるようだ。うーん。運用の問題かな。と、当たり前のことでお茶が濁ってしまった。