外人さん相手の互換性:2004-06-04

奈良の出張は、国際会議の参加を兼ねたお手伝い。参加者が400名ほど、半分が海外で、およそ30カ国から集まる。ポスターや口演で各自の主張を発表する。公用言語は英語である。こういった会議で発表するときは、締め切りまでに発表の要旨を書式に則って主催者に申し込み、後は参加費用の振り込みなど、事務的な手続きを行う。今回は、会議のウエブサイトが作られており、ウエブページ上の申し込みフォームを利用する。講演の要旨は要旨集にまとめられ、当日受付で参加登録と引き替えに渡される。

発表の方法も、同じウエブページ上で公開されていたはず。私自身は発表をしなかったので、詳しいことは知らない。ポスター発表は、掲示する時間と、掲示板のサイズと利用方法。即ち、上に演題と発表者名を入れて、後は自由にどうぞ。口演の方は、パソコン利用。しかも、原則PowerPoint限定で、OSもWindows98以上、もしくはマックとなっていたはずである。CD-ROMかUSBのメモリでパワーポイントデータを持参し、受付で係員に渡し、用意されているパソコンでチェックし、LANでつながっているハードディスクドライブにコピーする。

発表時は受付にあるものと同等の裏方パソコンでファイルを開き、プロジェクターで映写する。演台には液晶モニタとキーボード、マウス、レーザーポインタが用意される。

私は初日のスライド受付を担当した。受付にはIBMのThinkPadが二台、PowerBookG4が一台用意された。OSはXPとOSX10.3である。大変緊張する作業だった。間違いがあったら厄介である。今まで参加した会議は自分のパソコン持参だった。途中で止まったり、表示がずれたり文字が化けたりしても、各人の責任となる。今回一番神経を使ったのが、ファイルが行方不明にならないこと。ファイル名を演題番号と後援者名を組み合わせたものに変えて、適切なフォルダにコピーする。それからパワーポイントで開き、表示を確認してもらう。

会議中は大きなトラブルはなかったのだが、受付でファイルを修正しようとする人がいる。アニメーションをどうこうしたい、と、英語でコミュニケーション。ところが、用意したパソコンはOSが日本語版でメニューも日本語である。日本語メニューは海外の人には文字化けしているのと同じこと。向こうの意図を正確に理解して、操作法が分かれば良いのだが、何をしたいのか分からない上に、係員がパワーポイントの細かな操作法を心得ていない場合手に負えないことになる。互換性を考えると、英語モードに切り替え出来るようにして欲しい、と、マジに思った。これはThinkPadのはなしで、私はWindowsの経験がないから、そっちの方には手を出さなかったのだが。

因みに、マックはMacで通じるが、ウインドウズはWindowsでは通じない。PCである。海外の参加者のほとんどが、PC利用。マックを使うほとんどが日本人参加者と、強いて挙げるとドイツ人だった。日本人の半数程度は未だにClassicOSを使っている。主催者が用意した最新のPowerBookにクラシックバージョンのPowerPointがインストールされていない。PowerPoint ver.Xの上位互換性はそこそこのレベルと思うが、Classic verのPowerPointの下位互換性は部分的に問題がある。今回も図表の一部が表示されないものが出てきた。解決できず、結局自分のパソコンを持ち込んでもらうことになった。他にも、動画を使う人など、結局数名がパソコンを持ち込みとなった。Keynoteなど、他のソフトを使いたい人も、自前パソコン持ち込みとなる。

ついでに云うと、Wordも英語モード切り替えを用意して欲しい。海外出版社の投稿規定は大抵、Double-spaceの行間を指定している。海外とファイルをやりとりするときのストレスは相当なものである。元々が英語なんだから、簡単に出来そうに思うが。

二日目以降は講演会場の裏方となって、色々なパワーポイントプレゼンテーションを眺めていた。文章が長いのはダメだなぁ、と思う。口演の保険みたいなもので、私の先輩は、スライドに書いてあることをそのまま読めばいい、というのだ。しかし、客席に座る立場からすると、3行を越えると読むのが面倒になる。つまり、聴衆にとって長すぎるセンテンスは無意味なのだ。そういう意味で、動的なスライド構成でアニメーションを使って小出しにするのは意味がある。小出しにすることを考えると、単純なセンテンスとするよりも、要約して箇条書きにするべきだと思う。また、アニメーションは、聴衆の視線の動きを十分に意識し、注意が散漫にならないように、その時点で不要なものを隠す、というネガティブセレクションの発想が正解と思う。

そして、気がつけばパワーポイントにがんじがらめなのだ。つまり、パワーポイントで表現出来るかどうか、あるいは、そのスキルを持っているかどうか、が、プレゼンテーションの構成を決めて、結果的に口演の内容まで縛ってしまう。パワーポイントのプレゼンテーションは、一端進めると逆戻りし難く、脇道に逸れるのが苦手である。往ったきりの一方通行になりがちで、データの有機的な繋がりを示しにくい。

有機的な繋がりを積極的に示したり、脇道に逸れることを考えると、ハイパーリンクによるHTMLをプレゼンテーションに用いることが魅力的に思える。加えて、スタイルシートとブラウザの表現力は、テキスト表示に関してパワーポイントに遜色が無いように思う。プレゼンテーションツールにハイパーリンクの発想を取り入れることはさほど難しいことと思わない。よく見ればPowerPointはオブジェクトに動作設定ボタンのユーザ設定でクリックでハイパーリンクを設定できるのだ。(先ほど気がついた。)

プレゼンテーション資料の内容を突き詰めれば、まずストーリーがあり、それを具現化してみせるための文書構造化がある。その構造が一目瞭然となる資料は、見る側と喋る側双方に有意義と思う。パワーポイント、およびその擬きとしてのKeynoteで、構造化を担う部分はアウトライン表示である。アウトライン表示にもう少し機能を付加して、アウトラインの構造をファイル作成者に明示的に認識させることはプレゼンツールを使いやすくする上で大変有意義と思う。

プレゼン資料は、まず念入りにアウトラインを作るところから始めなくてはならないと思うが、今回私が見たスライド資料の多くはアウトライン部分が空っぽであった。